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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)1042号 決定 1957年2月07日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人両名の各負担とする。

理由

弁護人佐藤義弥の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、その実質は、単に原判決は証拠に基づかない判断であるか若しくは刑法一六五条の解釈を誤り又は量刑不当であると主張するに過ぎないものであり、被告人田原保、同都通哲雄の各上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張を出でないものであって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(いわゆる公印偽造罪を罰するのは、結局実在する公務所又は公務員の印章若しくは署名の信用を保護しようとするものであるから、偽造の印章若しくは署名が通常人をして実在する公務所又は公務員の印章若しくは署名と誤信せしめるに足りる程度の形式、外観を備えている以上、実際のものと一致しなくとも、同罪の成立を妨げないものといわなければならない。されば、本件で、原判決の確定したように、小野田市長名義の転出証明書を偽造せんと企て、これに押捺すべく、一見して小野田市長姫井伊介の印章と誤信せしむべき「小野田市長印」「姫井伊介」なる不可分の関係に立つ二個の印章を作成偽造した以上、仮りに、姫井伊介なる者が、架空の人物であったとしても、通常人をして結局公務員である小野田市長の印章と誤信せしめるおそれあること明らかであり、また前記証明書は日附を遡らせて在職中の姫井伊介名義となしうるものであるから、公印偽造の成立すること論を待たない。されば、原判決が偶々被告人等の犯行より一週間位前右姫井伊介が市長選挙に落選してその職を退いていたとしても本件印章の作成を公務員の印章偽造と認めるに妨げない旨判示したのは結局正当である。)

よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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